#ゲイと東京から遠く離れて 2020冬(大阪2日目午前)
いかりや長介にホモだということを、アウティングされる夢を見て起きる。
詳細は起きた時までは憶えていたのだが、なんでお前が俺の性体験を知っているんだ!馬鹿野郎!と笑いながら怒鳴り散らすのだが、周りの知らない人たちはいかりや長介の話ばかりを聴いて、笑っていたことだけは記憶にある。
笑っている人たちは、俺の話かどうかなんてのは関係なくて、他人の性体験は笑うためにあるのだろうか。
しかし、もしかしたら寝言でも怒鳴り散らしていたのかもしれない。
そうだったとしたら、本当に迷惑な客だったと思うが、そんな窮屈な夢を見たのは、カプセルホテルに泊まったせいの気もする。
朝風呂に入って首筋にたまった冷たい寝汗を流し、身支度を整えてカプセルホテルを後にする。
外に出ると弱い雨が降っていた。
夜の間は結構な雨が降っていたのか、大通りの路面は雨水で湿って、曇天の空を映して輝いていた。
今日の当初の予定としては、カレー屋さん巡りをしようと考えていた。
けれども、昨日、民俗学博物館の展示を周りからなかったので、今日も観に行くことにしたのだった。
ただ、どうしても食べてみたいカレーがあったので、昼飯にそのカレー屋さんに行って、博物館は午後から行くことにした。
そのカレー屋さんは午前11時半が開店時間なので、それまでの時間は、できればモーニングのある喫茶店で過ごせればとスマホで検索してみる。
しかし、魅力的なお店は総じて日曜は休みで、散歩しながら探すにも雨も降っている。
いろいろと面倒になってしまって、結局、梅田駅のマクドナルドで朝マックをすることにした。
いや、大阪だと「朝マクド」と言うのだろうか。
どっちなのだろう。
大きな駅のマクドナルドなだけあって、待ち合わせに使う人や出かける前の時間調整に立ち寄っている人、勉強をしに来ている学生や時間をつぶしに来たお年寄りなど、幅広い客層で混み合っていた。
(これだけレジの並ぶマックは東京でも珍しい気がする)
(前の席に座る若者のグループのひとりがしきりに咳き込んでいるのが気になった)
コーヒーを飲みながら、持って来ていた小説の続きを読むが、主人公の境遇が自分と似ていて気楽に読み進めることができない。
ソーセージマフィンの強い塩分と香料で痺れた舌から、まだ味が滲み出てくるので気持ちが悪くなった。
カレー屋さんの開店時間までは多少の余裕はあるので、近くの紀伊国屋書店に立ち寄ってみた。
特に大阪らしい棚は見当たらなかったけれども、1フロアにかなり広い面積があって、棚も見やすいので良いお店だと思った。
レジ脇のメインの棚には、新装刊の文庫版じゃりン子チエちゃんがプッシュされていたので、少し嬉しくなる。
(チエちゃんの父テツは俺のタイプだったりする)
ぐるりと棚を見て回って、入口とは反対の出口から店を出る。
大阪の駅はガード下のスペースを無駄なく使うことを美徳としているのか、また別の内装の真新しい雑貨を中心にした専門店街があった。
通路を道なりに進むと、タクシー乗り場と高速バス乗り場に出て、ガード下にターミナルがあることにまた驚く。
ターミナルを渡ると、今度は飲食店中心の専門店街があって、その通路の突き当たりには地蔵尊が在ったときには、一筋縄ではいかない設計コンセプトに頭が混乱してきた。
意匠はいま風で新しいのだが、細かくて雑多な動線と配置にアジアを感じる。
外に出ると阪急とJRの駅の間を渡る巨大なデッキを、たくさんの人が移動していた。
ここまで大きなデッキ?コンコース?は東京でも珍しい。
最近は渋谷の再開発の辺りで見られるようになったけれど、まだ完成はしていないので物珍しさにキョロキョロしながら渡る。
目線を高く遠くを見ると新しくて綺麗なファサードの建築デザインが目に入ってくるが、目線をデッキの下に逸らすと覆い隠しきれなかった旧来の設備が見える。
経年劣化と一昔前の無骨なデザインは、修繕されることもないし、新しいものとの調和も図られることなくそこにあった。
(JRの駅のホームにかかるピカピカの鉄骨の大屋根と、手前にある錆びの目立つ柵の対比)
JRの方の駅前ロータリーに出ると、目に入る建物の全てが真新しく見えた。
以前はここに何があったのかさえ、想像するのは難しい。
駅周辺部から5分ほど歩いたところに目的地のカレー屋さんはあった。
予定通り、オープン時間の少し前に着いたのだが、階段を上ると先客が数人並んでいる。
いずれもちょくちょく来ている様子のお客さんで、初見の客は自分だけのようだ。
5分ほど待ってオープン時間を迎えると、カウンター席に案内されて目的のメニューを注文した。
(厨房の調理台に置き切れなかったらしい、パクチーの入ったタッパーが目の前に)
(カレーのために開発されたクラフトビール。ウコン入りらしい。)
(オープンしてからすぐに満席になって、店前にも列ができていた)
15分ほど待ってカレーが届いた。
プレミアムとんかつカリー。
厚切りの豚肉に薄く衣をつけたとんかつに、スパイスカリーと黒カリーと合わせたもの。
ほうれん草のカレーソースは別盛りで付いてくる。
レモンは黒カリーにかけて食べる。
大阪のスパイスカレーはシャバシャバ系で濃厚さは無いが、その分、スパイスの香りを楽しむ感じの仕上がりなのだろうか。
普段は中濃ソースでとんかつを食べるので、スパイスカレーのあっさりさに、正直物足りなさは否めないが、十分なボリュームに満足する。
(食べ終わると頭から汗がしたたってきた)
店を出たら来た道を戻り、御堂筋線梅田駅に向かう。
ホームの巨大なスクリーンが、ホームの照明デザインを殺していた。
伊原六花ちゃんが、地元関西なだけあって色々と起用されているらしい。
昨日もやっていた青森県の販促イベントは、雨のせいもあって更に寂しい感じになっていた。
モノレールに乗って万博記念公園駅で降りる。
もう昼過ぎだというのに、空は今朝と同じような色をしている。
雨雲の下にある太陽の塔は、湿った地面から生えたキノコのように見えた。
ショッピングモールのエキスポシティは今日も人がたくさん。
ガンバ大阪の試合も近くであるのか、スポーティな格好をした人が多い。
公園の入り口で民族学博物館のチケットを買って入場すると、背景の曇り空に埋もれるように太陽の塔が正面に見えた。
本物の太陽は雨雲に隠されているからだろうか、塔に掘られた顔は不服そうで、いつもの威厳さとは別物に見えてくる。
まるで、いまは見てくれるな、と言っているかのような顔をしている。
けれども、それに構わず自分はスマホでその様子を写真を撮って、記念の自撮りをした。
こうして、さも誰かに決められたタスクであるかのように振る舞う図々しさというのは、あまり知り合いには見られたくないところだ。
いまとなって思い返せば、彼の人もそういうところを目にする度に距離を取っていたのだと思う。
旅に出ると物理的にも心理的にも、普段の自分から離れられて、そこからわかることが良くも悪くもたくさんある。
#ゲイと東京から遠く離れて 2020冬(大阪2日目午前)