#ゲイと東京から遠く離れて 2019年秋(1日目午前)
大分空港には予定よりも5分遅れで到着した。
飛行機の窓から滑走路の向こうを見ると、青空には刷毛でサッとはいたような白い雲が広がっている。
雨で暗かった東京とは違って、とても暖かそうな空気が、辺りの景色を明るく包んでいるように見えた。
よくある地方空港と同じように、大分空港も小規模な空港ではあるけれど、改装したばかりのようで小ざっぱりとしている。
白を基調にした内装のデザインが、絶好の天気の良さのおかげで、とても映えて眩しいぐらいだ。
どちらかというと、南国リゾート地をイメージさせるほどの明るさに少し驚いてしまった。
到着ゲートを出ると、かぼすで作られたタワー?ピラミッドが飾ってあった。
ビターで爽やかな香りで出迎えてもらえるとは、粋な計らいだなぁと感心してしまう。
自分の地元では香りを用いて歓迎することは難しい。
予約していたレンタカーの受付窓口は、到着ロビーの中央に仮設のブースが設けられていた。
全国区の業者から地元のみの業者まで、各社のブースでは係の人が忙しそうに接客の対応をされている。
自分が頼んでいた業者は、ちょうど運良く一区切りついたところで、待つことなく受付を済ませてもらう。
借りる車は空港の敷地に隣接する店舗にあるそうなので、送迎車に乗せてもらって店舗に向かう。
空港の外に出ると、ヤシの木が並木となって植えられていて、硬い葉っぱが明るい日光を照り返していた。
大分は九州の上半分に位置するので、南国のイメージはなかったのだが、緯度を考えれば宮崎の方に近いのだから、南国の雰囲気を漂わせるのも変なことではない。
レンタカーの事務所に着くと、手続きは早々に済ませて、係の女性と車のチェックに向かう。
大分に来るのは初めてなので、念のため係の人に、大分のドライバーの気質やローカルルールはあるのかどうかを尋ねてみた。
しかし、質問の主旨が上手く伝わらなかったようで、質問を変えて、北九州の運転はかなり雑に感じたんですが大分はどうでしょう? と聞いてみる。
すると係の方は「北九州ほどではないと思いますょ」と答えてくれた。
運転スキル的には、どうやら自分の経験値で足りそうな感じで少し安心する。
今回用意してもらったのも軽自動車クラスの車だ。
車種はダイハツのムーブで色は真っ白。
年式は少し古いが乗り慣れている大きさなので、これなら特段に運転で困ることはなさそうだった。
係の人から鍵を受け取って車に乗り込むと、エンジンをかけて最初の目的地をナビに設定する。
早朝からアーモンドチョコとコーヒーしか飲んでいなかったので、とにかくおなかが空いていた。
とりあえずは、腹ごしらえに行くことにしようか。
事前に目星をつけておいた、別府市内にある中華料理屋に目的地をセットする。
1時間ほどで到着するようで、開店時間と同じ時刻でタイミングもいい。
道順を軽く頭に入れて、レンタカーの駐車場から空港前の大通りに出て車を走らせる。
なにせ初めて走る土地なもんで、市内までの道のりはどんな光景が広がっているのだろうかと心が逸ってくる。
湾岸沿いの道路に出ると、地図的には瀬戸内海と別府湾のどっちともつかない海が、白い水色でキラキラと輝いていた。
砂浜も白い色に近く、海と空の青と沿岸部の木々の緑とのコントラストが美しく見える。
途中、砂浜に降りていく若者のグループも見かけられたので、寄り道しようかと思うものの、それは駐車スペースを通り過ぎてしまった後だった。
帰りに時間があったら寄ってみることにして、そのまま先を急ぐことにした。
道なりに進んでいくと、昔は有料道路だったらしい「空港道路」に入っていく。
高速道路のような見た目をしているが、車線が2車線になったり1車線になったりして、あまり走ったことのない道路だった。
それに中央分離帯が頑丈な塀になっているゾーンもあれば、ポールだけのゾーンもあったり、また、緩やかなアップダウンもある変化の激しい道路で、なかなかに運転も慌ただしくなる。
先っきまでは湾岸沿いの道路だったけれど、空港道路に入ると山の中を走っていくので景色も一変した。
視界に移ろいで行く山の樹々の様子は、緑色が濃いのはもちろんなのだが、柔らかく厚い葉を茂らせており 、風に揺れる様子が実にしなやかで、独特な様子をしている。
やはり温暖な気候だからなのだろうか、関東で見る広葉樹とはだいぶ違うものに見えた。
時折、山と山の間からは、ミカン畑や田畑の広がる様子を眺められた 。
山鳥の声もよく響いてくる。
まだ大分に来たばかりだったが、少しの時間で大分の自然の豊かさを思い知ることができたように思う。
空港道路を降りて別府方面のバイパスに出ると、また湾岸沿いの道路に出た。
(友だちの母校、立命館アジア太平洋大学の入口。左側は海。)
大きなトラックと仕事や買い物中の乗用車、または自分と同じように旅行中のレンタカーなどが途切れなく走っていく。
道路脇にはまた大きなヤシの木がそびえたって並んでいて、左側には海と右側には山という景色がずっと続いた。
陽も高くなって気温も上がってきて、なおさらに南国に来たような感覚になってきた。
車が市街地に入って行くと、全国チェーンの店舗に並んで、見慣れない名前のスーパーやレストラン、企業の看板が目に入ってくる。
どの建物もコンクリート造のものが多く、ゴツゴツとしている。
台風対策なのだろうか、それとも海沿いだからなのだろうか。
しばらくすると、ガイドブックで見た海浜砂湯のある公園や別府タワーの前を、予期せず車が通過して行った。
あーガイドブックに載ってたやつだーと、場所を自分の目で確認すると、地元の人のように、もういつでも来られる気がしてくるから不思議だ。
しかし同じ日本ではあるのだけれど、見慣れない地名の看板や店舗を眺めていると、パラレルワールドに来てしまったかのようになって、頭がポーッとしてくる。
「これこそ文字通りのトリップじゃんね~」と、NHK大河ドラマ 『いだてん』のまーちゃんの風体で言ってみては、ひとり車の中で肩を震わせて笑った。
ひとり旅なのだから遠慮はいらない。
#ゲイと東京から遠く離れて 2019年秋(1日目午前)