ウォンバットの黄金バット

いろんなバットちゃんです。

#ゲイと東京から遠く離れて 1日目

マイルの貯まるクレジットカードにしてから4年が経った。

陸マイラーとしてコツコツと決済に使ううちに、すでに5万マイルほど貯まっているのだが、一気に使ってハワイに行こうという気にならないのは、どうしてなのだろうか。

有効期限が迫るメッセージが通知される度に、どこへ行こうかと思案してみるものの、どうしても心は奄美大島に行くことを望んでしまう。

この間も4月に期限の切れるマイルの知らせが届いた。

会社の春闘期間と年度末進行の業務が、ちょうど始まる前で、休暇を取る時期を悩みはしたものの、やっぱり行き先は奄美大島になってしまった。

 

奄美大島へ行くのは、今回で4度目である。

初めて行ったのは4年前で、島出身の同僚に勧められ続けていたのを、半ば断り切れなくなったのが最初だった。

それまで30年間も生きてきたのに、当時の自分は海水浴をしたことがなく、南の島で何をしたらよいのか、さっぱり検討もつかないしで、実のところ最初はそこまで乗り気ではなかった。

しかし、着陸体勢に入った飛行機の窓から、青々とした海と濃い緑に鬱蒼とする島、その境を縁取るように広がる珊瑚礁の様子が近くに見えてくると、そのときにはもう、島の魅力にすっかり取り憑かれてしまっていたような気がする。

初めて奄美に来たときは、2泊3日の短い時間であったが、同僚に島を案内してもらったのも良かった。

地元の人と行動するうちに、観光客とは違う目線で島の光景を眺めることができた。

それは、とても貴重な機会だったといまでも思う。

この島を観光地として見ると、どうしてもコンテンツ力に欠け、沖縄には敵わない印象が強い。

しかし、その分、"スペシャル感"を自ら演出してはしゃぐ必要もないので、ゆっくり過ごすことができる。

だから、この島を自分は気に入ってしまったのかもしれない。

 

今回の旅でいつもと違うのは、冬の時期に来たことだ。

これまで9月末が期限の有休消化を急ぐように、夏の終わりの時期に来ていた。

いまは、所謂、オフシーズンではあるものの、最低気温は10度前後なので、関東で言えば、春先の陽気と等しいものである。

実際、沿道に植えられた桜は咲き終わって葉が生い茂っていたし、遠くの方の山肌では、新緑の若芽が萌え、黄緑色を輝かせていた。

ちょうど到着した日は、東京でも春の陽気で暖かかったのだが、視界に広がる景色は、冬など無かったかのように初夏の光景が広がっていた。

 

12:00発14:30着の便で空港に到着すると、約束した通り、宿のご主人が車で迎えに来てくれていた。

昨年の9月にも泊まった宿にしたのだが、どうやら自分のことは憶えてはいない様子で、少し残念なようで、少しホッとした。

 

宿に到着して荷を降ろすと、もう15:30を過ぎていた。

3泊4日の旅の内、初日と最終日は特に予定を決めてはいなかったが、晴れたら夕日を見に行こうとは考えていた。

この島には、夕陽のビュースポットがいくつかある。

太平洋と東シナ海に囲まれた島なので、日の出のビュースポットもあるとは思うのだが、観光案内で紹介されるのは夕日のポイントばかりだ。

同僚のお姉さんが言うには、この島から見る夕陽には、海と空が黄金色に輝く瞬間があるらしい。

それが見たくて、過去3度とも見に行っているのだが、いずれも曇に阻まれており、黄金色のそれは見たことがない。

天気予報を見ると晴れだったが、着陸までの間、飛行機から見えた西の空は、少し薄雲りの様子だった。

期待はできそうにないけれど、もしもに期待して行ってみることにした。

 

宿でレンタカーを借りて、40分ほど走らせたところにある、いつもの夕陽ポイントに向かう。

この島は小高い山が多く、車を走らせると、何度もトンネルをくぐることになる。

この島の集落は、山と山に挟まれるような形で海岸線に点在しており、その昔、集落と集落を移動する際には、陸路だと山を越える必要があり、大抵は舟を漕いで移動していたという。

近年でも、新たなトンネルが開通されるのを待たれる地域が、いまだにあるのだと聞く。

車の排気ガスで充満するトンネルの歩道を、通学のために自転車や徒歩で行く学生を見ると、気の毒な感じがしてならない。

ただ、こういう別の価値観から心配されることほど、余計なお世話に聞こえるのだろうな、とも思ったりして反省する。

窓を開けて車を走ると、清々しい海風と山の土の匂いが、車内に入り込んで心地よいのだが、トンネルに入るたびに排気ガスがドッと押し寄せてくる。

車の窓を開け閉めするのに慣れず、なかなか忙しないドライブになった。

 

途中、時間調整も兼ねて、早々にお土産を買う時間を取ったりなどして、夕陽のビューポイントには17時ぐらいに着いた。

その日の日没予定時刻は、18時20分。

少し早いかと思っていたが、西の空に浮かぶ雲は、薄く桃色に染まりかけ、水色の空とのコントラストを彩らせていた。

けれども、東シナ海の水平線近くには厚い雲が覆っており、例の黄金色の空と海は、今日も見ることができないだろうということは、即座に察することができた。

街に戻って時間を潰すこともできたが、その場に留まって、空と海と島の景色が遷移していく様子をボンヤリと眺めることにした。

周囲の島の人たちが、自分と同じようにしていたせいもあるが、この景色を眺められるのも今だけだと思ったら、尊いものに思えたのだ。

 

近くには、ひとり若い人がバイクで来ていて、スマホをいじりつつ日没を待っていた。

その他には友人同士で車で来て、車内で談笑しながら、西の空を眺める人たちが2組ほどいた。

観光客はいなくもなかったが、夕陽が見えそうもないとわかると、記念写真を撮って、すぐにどこかへ行ってしまった。

島の人と同じことをしたら、何か偉いことでも起きるのかというとそんなことはない。

島の外から来た人間が、島で暮らす人と同じ感覚を味わえるとも思ってもいない。

この旅では非日常さは求めておらず、東京と同じように、何でもない時間を過ごしてみたいと思っていたのだ。

 

血縁も所縁もない自分が、この島に馴染む必要もないし、そもそも、勝手にそう望むこと自体が無粋だし、おこがましいことだとも思う。

だからというか、東京から遠く離れて、この島に一人で来たのは、自分の居場所を新たに探しに来たのではなく、それが何処であっても、誰に対してであっても、理解してほしい自分の核みたいなものがあるのか、あるのならばそれは何なのかを確かめに来たように思う。

「ゲイと東京」という散文が投稿されるブログを読んで、東京だからなんなのか、と思うところがあったのだが、これのせいかもしれない。

なんとなく体裁を勝手に借りてみて、記録してみたら、何かはっきりすることがあるだろうか。

怒られるかもしれないけれど。

 

ぼんやりとしているうちに、西の水平線からは、ますます厚い雲が浜に向かってきて、水色と桃色だった空は、海と空の境目もわからないほどに紺色に染まっていた。

厚い雲の向こう側で太陽が沈んだことを予感させるかのように、雲と雲の間からは、オレンジ色の光が細く光っているのが見えた。

いつのまにか、そこにいるのは自分だけになっていた。

いくら初夏の陽気といえども、暗くなった後の海風はさすがに冷たい。

近くにある海水温浴施設に行き、身体を温めた後、島一番の繁華街にある同僚の同級生が開く店で、夕飯にハンバーガーを食べて、宿に戻ったのは23時少し前だった。

 

iPhoneで天気予報を確認すると、明日も晴れそうだった。

太平洋から浮かぶ日の出を見に行くことにして、スマホの目覚ましをかけて布団に入る。

その直後、東京から「飲みに行きたい」とLINEが届いた。

島に行くと昨日告げてあったはずなのに、と思いながら断りの返信を送る。

島に来なかったら会えたのになぁと、東京からの返信を待ちたくて、しばし眠れそうになかったが、運転の気疲れのせいか、いつの間にか眠ってしまっていた。

こういうところが自分で自分の嫌いなところだ。

 

【1日目の記録画像】

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奄美空港に着陸間近の飛行機から撮影した様子。

風向きの関係で、いつもとは逆の方向から滑走路に入ったため、島側を眺めることができなかった。

 

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宿の部屋の様子。

今回は和室にしてもらった。

 

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いつもおみやげの果物を買うお店の様子。

商品の果物が地面に並ぶのが南国らしい。

他のお店でも、旬のたんかんがたくさん並んでいた。

 

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東シナ海と日没の様子。

 

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先日のタンカー事故の名残。

だいぶ片付いてはいたけれど、暫定的なものらしい。

 

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島一番の市街地にあるライブハウスとFMラジオ局。

今回、カサリンチュには遭遇できず。(残念)

 

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この日の夕飯は同僚の同級生のお店で🍔。

車なのでノンアルコールビールで我慢する。

チーズマカロニ付きにしたら、想定外のボリュームに。これで1980円は安いかもしれない。

アメリカで食べて以来だったけど、美味しい味で美味しく食べられた。

後ろのテーブル席では、高校生の卒業祝いをする家族で賑やか。

家族でこういうダイニングバーに来るのもすげえな、と思いつつ、島らしさを堪能する。

ひとりだとものすごく話しかけられるので、寂しさはなかった。

 

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宿の駐車場を照らす月の様子。

車を走らせてる間、その大きさに感心するばかりだった。

 

 

#ゲイと東京から遠く離れて 1日目