ウォンバットの黄金バット

いろんなバットちゃんです。

#ゲイと東京から遠く離れて 2日目(朝)

きょうは休みの日で、しかも旅先だというのにも関わらず、いつもの朝と同じように5時半に目が覚めてしまった。

普段であれば二度寝をするところだが、今日は日の出を見に行くので、そのまま起きなければならない。

部屋の外からは、宿のご主人が朝食の用意をしている音が聴こえる。

部屋の障子戸越しからは、ぼんやりと黄色く外の光が透けて見える。

障子戸を開けて、それと二重サッシで裏にある窓を開けると、朝のひんやりとした空気と波の音が、風に乗って部屋に入り込んできた。

まだ薄暗いけれど、空に浮かぶ雲は上空高くに点々とあるだけで、浜辺に行けば水平線から浮かぶ日の出を見られるかもしれない。

 

逸る気持ちを抑えながらハーパンをはき、上着を羽織って支度をする。

日の出の予定時刻は6時40分ごろ。

宿から一番近い浜辺までは、歩いて5分もしないで到着できる。

まったく急ぐ必要もないのだが、期待が高まるばかりに、宿のご主人に外出とサンダルを借りる旨を告げ、宿の玄関を出た。

近くの砂浜までの道には、近隣の住宅が植えている生垣と、庭の木々で鬱蒼としている。

雄鶏の鳴く声も響き渡り、波音と葉のこすれる音とが相俟って、なかなかにぎやかな道のりなのだが、自分以外に人の気配はまったく感じられず、不思議と静けさを感じてしまう。

 

浜辺の駐車場まで出てくると、水色の空とクリーム色とグレーでモコモコっとした雲、それと濃紺色の太平洋の海が、海風と共に視界に飛び込んできた。

水平線よりも高いところに浮かぶ雲は、その下端が金色に輝いている。

けれど、水平線の近くは靄がかかっている。

日の出が見られることは間違いなさそうだったが、水平線から顔を出す太陽は望めなさそうだった。

 

浜には誰もいないのかと思って、駐車場にある自販機で温かい飲み物を選んでいたら、地元の若者が車でやってきた。

どうやらサーフィンをしに来たらしく、車内から海の方を眺めている。

自分と同じように日の出を待っているのか、それとも、単に波の様子を見て、入るか否かを決めようとしているだけなのか。

島で暮らすと、こういう暮らしが普段ものとしてできるのか、とうらやましさを感じる。

東京だって日の出を見られる場所なんて、たくさんあるというのにおかしな話だ。

 

太平洋側の海は、この日、波がとても穏やかだった。

波打ち際まで砂浜を歩いていくと、透明に輝く水が砂浜に打ち寄せては引いていくのを、規則性のないリズムで繰り返している。

宿を出て、10分も経っていないのに、ビーチサンダルを履いた素足は、指先が少し冷えてしまっていたけれど、せっかく来たので波にさらしてみる。

水温は競泳用プールの水温と同じくらいに感じられ、冷たいは冷たいのだけれど、入れなくもない冷たさだった。

また、ミネラル分の豊富な海水なので、素足を浚っていく水は、とても柔らかな感触があった。

遠くの浜辺では、駐車場ですれ違った若者が、ボードに乗って波が来るのを待っていた。

彼が見る方向を自分も見ると、空のオレンジ色がだんだんと濃くなってきている。

時計を見ると、6:30になっていた。

そろそろ出るかな、とジャブジャブと波と遊びながら待つ。

 

6:35、水平線の上を覆う靄から、橙色の光の弧が見えてきた。
そのうち弧は大きな円となって水平線上に浮かび、黄金色の光によって空を明るく照らし始める。

また海面の波がそれを瞬かせた。

とても大きな太陽で、とても美しかった。

辺りはだんだんと明るくなって、足元に打ち寄せる波も透明度が増した、というか、海の底まで光が届いて、砂の一粒一粒がチラチラと輝きはじめた。

 

島に来られてよかった、と率直に思った。

けれどもそれと同時に、昨晩に東京から届いたLINEが脳裏によぎる。

断りのメッセージを送った後、返事はまだ届いていなかった。
機嫌を損ねてしまっただろうか、という曇った心を、昇ったばかりの太陽を見つめて光に透かしてみる。

先っきまでは、島に来られてよかったと思っていたのに、そう思うことに後ろめたさも感じるのは、いささか自虐的すぎはしないか。

朝日に透かしているはずの心は、逆光でよく見えなくなってしまったかのような、もしくは、はっきりとさせたくないこととして、太陽を見つめる瞳の奥を鈍く痛みつけてくる。

日の出なんて興味もないかもしれないけれど、できることならば一緒に見たかったな、などと思う。

誘ってもいないのに。馬鹿すぎる。

 

陽は水平線から離れ、橙色から山吹色になっていた色も、すでに眩しくてまとも見られないようになっていた。

浜辺に立つスピーカーから、電子ピアノの音が鳴り響く。

この集落では、朝7時になると防災放送からチャイムが流れる。

そろそろ宿の朝食の準備も整ったころだろう。

腹ごしらえをしたら、どこへ行こうか。

午後の予定は決まっているけれど、午前中は何も予定がない。

 

天気も良さそうだし、以前、同僚が勧めてくれたビーチも近くだから行ってみようか。

ひとりで思案を重ねていたようで、まだ東京で寝ているであろうLINEの主に話しかけていたように思う。

 

【2日目(朝)の記録画像】

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#ゲイと東京から遠く離れて 2日目(朝)