ウォンバットの黄金バット

いろんなバットちゃんです。

#ゲイと東京から遠く離れて 3日目(夜)

タラソテラピーのある浜に着くと、もうすぐ日の入りの時間になっていた。

微かな望みにかけたのか、何組かの人が夕陽を見に来ているようだったが、西の海を眺めると厚い雲は、紺色に沈む色をした海の色を映していた。

少し高い波が砂浜に打ち寄せる音と、猛スピードで海の上を渡ってきた風が鼓膜を強く打って来る。

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日が暮れるに従って、海と雲の色は赤みが増して、紺色から濃い焦げ茶色になっていく。

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その色は、昨日の工房で見た何度も繰り返し染め上げられた泥染めの糸と同じ色をしていた。

所詮、人の創るものは現実の自然を超えることはないと、どこかの国の哲学者が言っていたような気がするが誰だっただろうか。

日が沈んだのを確認し、温水プールに入って軽く身体を動かし、真っ暗な空と海を眺めつつジャグジーで身体を温めた。

しばらくすると厚い雲の間から、星空が見えてきた。

イメージを広げて自分の視点を、海や上空を行ったり来たりさせてみる。

海の中から自分の存在は見えないだろうし、上空から見たら浜辺の砂つぶと大差のない存在に見えた。

こういう見方を常にすることができればいいのに、とユタ神様との話を思い出しながら考える。

すっかり腹を空かせたところで、シャワーで海水を洗い流し、施設から出ると20時を過ぎていた。

車で市街地へと戻る。

今日の夕食は、市街地にある魚介系の居酒屋である。

街の有料の駐車場に車を停めて、そこから程近いところにあるお店に向かう。

この島に訪れる度に出歩いているエリアなので、そのお店の場所は地図を見なくとも行くことができる。

歩いていると、仕事帰りで飲み歩いている島の方々とたくさんすれ違った。

週末の夜だからか、みんな朗らかな顔をして歩いている。

いまはオフシーズンだから、そもそも観光客は少ないのだけれども 、この島の歓楽街では夏のハイシーズンであっても、観光客よりスーツや仕事着を着た島の人の方が多い印象がある。

何度か来たところで、この島に住みつかない限りは、よそ者にしかなれない寂しさを感じたりもする。

しかし、実際そうなるしかないので、お邪魔させてもらう程度の感覚で過ごすべきなのだろう。

ここには自分の居場所がないことが、当たり前の事実だからこそ心をほっとさせてくれる。

これは東京では感じられない感覚である。

今晩に伺うお店は、島の情報誌にもデカデカと広告を載せるようなメジャーなお店だ。

いつでも行けると思って、これまで一回も行くことがなかった。

特別に看板メニューがあるわけではなく、島の魚を中心に至って普通の居酒屋メニューをそろえたお店である。

車の運転をしなくてはならないので、アルコールを飲めないのが残念でならなかったが、普通に美味しい料理をいただくことができた。

周りのお客さんは、島の人が7割、外の人が3割、って感じか。

耳に入ってくる会話を聴いていると、東京と変わらぬ話題で盛り上がっている。

どこに行ったところで人のする話題は変わらないのだと、今回の旅では何度となく思わされる。

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(島で獲れた魚の刺し盛り)

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(島野菜の天ぷら盛り合わせ)

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(シビのたたき丼)

食べ終わって会計を済ませて店を出ると、夜風に当たって帰ろうかと遠回りをしながら駐車場までの道を歩く。

そう言えば、この島でのんびり歩いたことがなかった。

いつも車で移動するのがほとんどだし、歩くにしても目的地に向かっているので、今度はぼんやりと無目的に歩いてみたいなと思った。

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(ようやく捕まえたサニーゴ)

明日は、午後の便で東京に帰る。

最終日の夜だったのだから、もう少し奮発して贅沢をしたら良かったなと少し後悔した。

また来る気になれば来られるし、と思って、次に食べたいものを念じるように記憶に刷り込んだ。

なかなかどんなものか理解できないかもしれないが、イメトレみたいなもので、知らない間に身につけた記憶法だ。

食べあぐねたものを列挙させては、それらを食べている様子をイメージするのだが、ふと、彼の人と一緒に食べている様子を思い浮かべてしまったのは、完全に深層心理の現れなのかもしれない。

いまごろ何をしているだろうか。

駐車場に戻って、車に乗り込んで宿までの道を戻る。

昨晩と同じように、ひんやりとした湿気に充満した暗闇の中を、ヘッドライトで打ち抜きながら車を走らせる。

相変わらず窓を開けて走らせているので、車内に入り込む風が鼓膜を打っているうちに無音の中を走っている感覚になる。

自然と今日見聞きしたことを思い返してみたら、走馬灯のようにイメージが浮かんできた。

早送りのはずで思い返しているはずなのに、イメージはゆっくりと流れていく。

宿に到着すると、例のサーファーの3人が広間でとびんにゃを食べていた。

同じ宿に泊まっているお爺さんが買ってきたものらしい。

とびんにゃというのは島の巻貝で、塩ゆでして食べると美味しい代物。

そういえば居酒屋で食べはぐった!と思い出し、荷物も置かずに一粒いただく。

できれば、とびんにゃで一杯飲みながらゆっくりしたいところだったが、明日の帰る準備をしてからにしようと我慢する。

午前につくったミキを袋から出すと、早速、少し気泡が立っていた 。

十分ではないが、発酵が進んでいるようだ。

問題は飛行機への持ち込みであるが、明日の搭乗時間のギリギリまでは発酵させて、直前にキャップをして持ち帰ることにした。

した、というか、それしか選択肢がなかった。

昨晩に物干し場に干しておいた染め物が乾いたかどうかを見に行くと、きょうは雨だったこともあり、まだしっとりとしていた。

染料が落ち切っていないし、夜のせいもあるけれど、この島の湿度の高さを思い知らされる。

明日の朝になれば、もっと湿気を吸ってそうな気もするが、部屋に入れることもできないのでそのままにする。

チェックアウトの時間ギリギリまで干して、荷造りをすることにした。

しかし、明日の午前はどうしようか。

何の予定も立てていなかったことに、今更ながら気づいてハッとした。

3日目までの予備にしていたものの、予定はすべてこなしてしまったのだった。

天気予報を見ると、晴れ時々雨というなんとも島らしい天気で、何をしようにも絶好の陽気になりそうはない。

もう面倒くさくなってしまったので、起きた時の気分で考えよう、と布団に入ると、外ではまた雨が強くなってきたようだ。

波の音と混じって、暗い部屋の中に伝わってくる。

どの服をおみやげに渡そうか、また悶々と考え始めてしまったのだけれど、外から聞こえてくるザーッというノイズに、意識が吸い込まれていくかのように眠りについた。

 

#ゲイと東京から遠く離れて 3日目(夜)