ウォンバットの黄金バット

いろんなバットちゃんです。

#ボタニカルホモ日誌 20190608

きょうはうちのベランダのことではなく、外出先で遭遇した植物のことの記録。

東京大学総合研究博物館の特別展示「家畜 ―愛で、育て、屠る―」を観に出かけたのだが、その展示の記録と合わせて記しておこうと思う。

https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/ja/events/z0301_00016.html

 

いまは遠くに引っ越してしまったので、東大の構内に入るのは久方ぶりである。

土曜日の午前中とあって人は疎らだが、研究や勉強をしに来た学生や教員、オープンキャンパスに来ている中高生などで適度に賑わっていた。

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東大の本郷キャンパスは、古い校舎と樹齢を重ねた植栽が多く、季節ごとにその表情を変えて見せてくれる。

学業に没頭しようにも、月日の流れを嫌が応にも感じさせてくれる環境があるのは、かなり理想的な環境なように思える。

一般の人も散歩道や生活道路として利用する人も多いので、一度、近くに来る機会があれば訪れてみたらよいと思うのだがどうだろうか。

いまの時季、ちょうど梅雨入りしたばかりのキャンパスでは、若葉は緑色がより一層と濃くなり、太陽の日差しを遮るまでに茂っていた。

煉瓦造りの校舎と樹木の間を歩くと、湿度を含んだ風が冷んやりと肌をさらっていく。

オープンキャンパスで来ているらしい中高生が視界に入ると、その夏服の白さと濃緑の景色とのコントラストがとても綺麗だった。

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安田講堂前の銀杏の並木を見上げると、たくさんの乳根を見ることができた。

幹のコブが垂れ下がるように伸びている様は、少し異様にも見えてくる。

気根の類かと思っていたが違うらしい。

乳のような形状から子宝の象徴として信仰の対象とされることもあるが、まだそれほど大きくないので男根がたくさんぶら下がっているように見える。
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博物館が開く時間まで少し余裕があったので、そのまま構内を散策してみる。

図書館の向かいにある校舎では入口前に大きな柑橘の木がある。

もう初夏を迎える頃なのに、たくさんの実をつけている。

八朔の類だろうか。

食べないなんてもったいないと思いつつ、たぶん美味しくないのだろうとも思う。

茶色い校舎と濃緑の葉と黄色い柑橘の実のコントラストを楽しめるから、取らないほうが良いのかもしれない。

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足元に目を移せば、満開のドクダミの花がそこら中にあった。

日陰に白い花が明るく映える。
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前を向くと名前を知らない花も。

もう少しすれば紫陽花も咲き出して綺麗なことだろう。
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藤の樹のボリュームがものすごいことになっていて笑った。

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予定の時間の少し前に博物館に到着。

構内の端っこにあるので着いた頃には汗だくになってしまった。

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展示は無料で見ることができる。
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展示期間中、毎週土曜の11時から展示監督をした遠藤教授がガイドをしてくれる。

今回はそれを目当てに来てみたのだ。

この展示のことを知ったのは、以前、安住アナのラジオで先生がゲストで来られた回を聴いたのがきっかけ。

先生のする話の面白さに時間が過ぎるのがあっという間だったし、展示を見に来てほしいという気持ちが溢れる話ぶりに、すっかり心酔してしまった。

先生の専門は動物解剖学で、獣医学を学ぶ流れで研究することになったそうだ。

ラジオでは家畜となる動物は人からどう見られて扱われてきたかを、古代から現代までの歴史を行き来しながら話をされていた。

家畜って食べる目的の動物ばかりをついつい想像してしまうのだが、鑑賞用としても飼われてきた歴史も長かったりする。

元々は野生で生きていた種が、人間と出会ったせいで、その見た目や性質を長い時間かけて変遷させてきたわけだ。

それは植物も同じこと。

人間とその他の生物がどのように織り成してきた歴史の末端で、いまの自分は生きているのか、俄然興味が湧いた。

 

入館して展示スペースに向かうと、たくさんのひとが先生のガイドを待っていた。

50人近くはいただろうか。意外と多い。

子ども連れの家族や、教養の深そうなおじさんとおばさん、一見興味のなさそうなOL風の女性たち、自分と同世代の男性も何人かいて、まさしく老若男女勢ぞろいという感じ。

なかなかここまで様々な世代の人が、目的を同じにして集まることは無いように思う。

みんな動物が好きなのかもしれない。

展示はたくさんの動物の頭骨や、剥製標本などがズラッと陳列されている。

とくに説明は表示されてなかったが、先生と助手の方が解説を書かれた館内用のガイドが貸し出されていた。

正直、展示の内容というか面白さは、よほど動物に詳しくないと、先生のガイドが無ければわからないかと思う。

(先生は「あたし」という一人称を使う)

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展示の内容をザッと紹介しておくと、

イノシシと豚の頭骨、その奥には食用や工芸品などに用いられる哺乳類の頭骨が並んでたり、
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ヒル七面鳥、一番奥にガチョウの標本、その間に天皇が飼っていた世界一小さい馬の標本、
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メインは鶏の標本がたくさん、

(手を上げているのが先生)
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あとは大型家畜の牛と馬、アルパカの剥製標本が並んでいた。

表面の皮が本物で中身は石膏で模られている。
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それと先生の研究の様子をまとめたVTRがランダムに流されていた。

(下の画像は骨格標本をつくるために、土に埋めていた象を掘り上げているところと、先生が嬉しそうに話す場面)
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予定の11時ピッタシに先生が登場すると、集まった人たちから自然と拍手が起きる。

先生が挨拶に続いて、集まった人の様子を見ながら、今日はよく見られる方と初めての方が半々くらいですね!と仰られる。

それを聞いて、毎度こんなに盛況なのか!と驚いた。

話す内容もその場で決めるらしい。

お客さんを見て、今日は鳥について話すことにされたようだ。

以下は話を聞きながら取ったメモ。整理するのが面倒なのでそのまま上げておく。

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ガチョウはハイイロガンを家畜化したもの。、

いまはフォアグラを目的に飼育している。

割りと古くから。エジプト文明の頃から飼育されている。

雁と鴨は掛け合わされまくって、遺伝子的にも系統がグチャグチャになってる。

牛も混ざりやすい。

だから便利で家畜化されてきた。

 


ヒルはカモを家畜化したもの。

ガチョウとは別物。

見た目は同じだけれど、犬と猫ぐらい違う(驚愕)。

 


七面鳥を家禽化したのは約3000年前から。

アメリカ原産で先住民が育てて食べてた。

そんなに美味しくないけれど、大きいから欧州でも流行った。

スペイン人が来るまで、ヨーロッパには無かった。

名前のトルコとは関係ない種。

家畜の名前は港の積み出し地の名前が付きやすい。

日本の尾長鶏アメリカでヨコハマと呼ばれている。

 


小国(左側の鶏)

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日本の鶏、少なくとも平安時代から飼われている。

日本で最も古くから名前のある品種

時計がわり。「時告ぎ」として飼われていた。

毎日の儀式や生活に用いられていたようだ。

喧嘩っ早くて闘鶏にもしていた。

見た目は軍鶏とは違うが、性格が闘鶏向き。

相手を見ると喧嘩を仕掛ける。

「鳥合せ」をして遊んでいた文献がある。平安時代からの話。

それはいまでも。

鶏は移動させやすいから、もっと平安時代より古くから伝わっていたはず。

馬や牛は4世紀の古墳時代に渡来する。

約50種類の品種が江戸時代につくられる。

世界に500種あるから、1/10が日本の品種。

 


薩摩鶏(中央)

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江戸時代に島津藩がつくった。

剣先鶏として、爪先に刃物を付けて闘鶏をしていた。

軍鶏は大きくて飼うのが大変だから、形は大きすぎず小さすぎずのものが好まれた。

性格が荒々しければ闘鶏ができる。

 

鶏の系統について
犬と鶏は人間が混ぜるから、遺伝子から系統の歴史を遡って把握するのは難しい。


地鶏は朝鮮半島経由らしい。

鶏の育種はとにかく難しい。

育種をやってる方はいますか?

あー、きょうはいませんか。

血が濃くなると、四世代くらい卵を産まなくなるんです。

合いの子をつくってから元の種を掛け合わせて元に戻す、という、バッククロスという手法を用いたりしますが、結構難しいです。

 


鶏は赤色野鶏が原種。

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中国南部からバングラデシュ辺りまで分布。

7千年前にベトナム(インドシナ半島)で家畜化したらしい。

一万年前に中国地域で、という話は怪しい。

 

30分ほど、先生の解説が終わると質問タイムが始まる。

半分くらいの人が質問するために列を成したが、先生はすべての人の質問に答えていた。

 

側で聞いていて印象的だったQ&A。

Q.屠殺されている時の動物はどういう意識でいるのか
A.屠殺の時は即死を目指している。瞬時に死ぬことになるため、特に意識する間もないと思う。

 

Q.牛などはこれ以上大きい品種を作らないのか

A.世話のこともあるから限度があるのだと思う。ただ、ヨーロッパでは自然生殖で繁殖しているため大きくなることがあると思う。日本は人工授精だから結果的にコントロールできているが、自然生殖だと突然変異で大きいものが生まれるかもしれない。

ヨーロッパでは繁殖用に雄牛を飼育してるところが多く、日本の人工授精での繁殖を自然の理に沿わないものとして忌避していたりする。

日本では人工授精を合理的なものに思うのだが、それさ畜産の歴史が浅いせいかもしれない。

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展示スペースは本当に狭いのだが、先生の解説が終わった後も、質問への回答を聞いたり、VTRを見るなどしていたら、2時間ほど滞在していた。

他のお客さんも過ぎていた時間の速さに驚きながら帰って行く。

人間と他の種の動物との関係を、科学だけではなく文化や経済的側面から縦横無尽に話す先生は、とても楽しそうだった。

ネットで検索してみると、先生の席は博物館付になっていた。

まさに天職という感じ。

ラジオで聴いたときの楽しさを、きょうは剥製標本を前に追体験できて本当に楽しかった。

今度は先生の本を読んでみようと思う。

 

博物館から出ると、厚い雲の間から少しだけ日差しが差していた。

濃緑に見えていた植栽の葉も、少し軽くなって風に揺れていた。

来た道を戻っていくと、生物学部の校舎の前に桃の木があった。

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よく見ると青い実がたくさん実っているではないか。

博物館へ向かう時には、急いでいて気づかなかったが結構な量の実がある。

葉や実にも、ほとんど虫がついてない様子からすると、それなりの世話をしているようだ。

この桃の木は、どんな人がどんな目的で植えて育てているのだろうか。

一方で、桃も人の手で育てられ始めてから、相当古い歴史があるわけで。

いまこの場でこの木が生えて生きているのも、いろんな歴史的経緯を経てきた結果だったりする。

同じ桃の木を見ても、人間と種の長い歴史と、個人と樹木の個別の歴史が重なって見えてくるから面白い。

先生の解説で聴き来られて、また植物たちとの楽しみ方が増えた気がする。

しかし、この桃が熟したら誰か食べたりするのだろうか。

結構、立派な桃がなりそうだけども。

またその時季になったら、観に来てみようと思う。

 

 

#ボタニカルホモ日誌 20190608