ウォンバットの黄金バット

いろんなバットちゃんです。

#ひと月も過ぎて誕生日 #延々演芸

トンキーホンクという漫才師をご存知だろうか。

漫才協会に所属する弾さんと利さんの二人組で、芸歴17年目のコンビである。

初めて見たのは上野鈴本の寄席に行った時で、利さんの愛嬌のあるボケと弾さんのカッコつけた突っ込みが絶妙で、一回見ただけで魅了されてしまった。

寄席に行くときはトリを務める噺家さんを目当てに行くことに変わりはないものの、その日の番組表にホンキートンクの名があると、得した気持ちになったものだ。

何度も寄席に通うと、同じネタを何度も見ることになったりもするが、決して飽きることはなかったし、何度も同じネタで笑わせてもらった。

ずっと寄席に通う限りは、そんなホンキートンクの漫才を観られるだろうと疑うことさえしなかったのだが、突如、2019年7月末日をもって利さんが脱退することになった。

まさかのことだと、とにかく驚いた。

利さんの御夫人が癌を患っていたこともあり、看病などで漫才を続けられなくなったのだろうか、といろいろと残念な気持ちになったが、利さんが言うには「不仲のせいでコミュニケーションが十分に取れなかった」というように説明されていた。

それが本当なのかどうかは客席で観る立場の自分にはわからないことではあるけれど、理由がひとつであることは無いのだろう、ということはわかる。

観客としては、たくさん笑わせてもらってきた漫才を、これから観られなくなるのがただただ残念で仕方がない。

最後の出演会には絶対行きたいと思っていたら、それが7月31日に上野鈴本の余一会にて解散公演をやるという。

東京の寄席では、その月に31日があると「余一会」という特別公演の企画を打つ。

寄席では10日間ごとか15日間ごとに「番組」という出演者のラインナップを変えるのだが、31日はその月の余った一日として、その日だけの企画が寄席ごとに組まれるのだ。

しかし噺家さんを中心に企画が組まれるのが普通で、漫才や曲芸での企画が組まれることは非常に稀だ。

2時間近くの時間を持たせるのが難しいのかもしれない。

しかし、トンキーホンクの解散公演は、同世代の超がつくほどの人気噺家さんたちも一席ずつ出られ、豪華な舞台になること間違いなしというプログラムが組まれていた。

実に画期的で、かつ寄席に愛されていたコンビとして相応しいはなむけの企画。

席亭さんも粋な計らいをされるもんだと、自分まで嬉しくなってくる。

ただ、あまりの豪華さに、チケットが取れないかもしれないと心配はしたものの、運良く最後の一枚を購入することができた。

ホッとはしたものの、その日からずっと楽しみでもあり、なんだか残念で寂しくもある、なんとも説明しがたい気分になった。

20年近くの時間を共にしていれば、ずっと同じ関係性でもいられるようにも思えるのだが、終わりが来ることもあるのだ。

年数が関係性の裏付けになることはない、ということに、勝手に一人で落ち込んでいた。

けれど、解散公演の日は、自分の誕生日の2日後だったこともあって、たくさん笑って、たくさんこれまでの舞台の活動を労って、互いに御祝いができるといいなぁと思うことにした。

(上野鈴本演芸場)

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(会社は午後に休みを取って観に行った)
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舞台の幕が開けると、「解散」という寂しさの漂う単語とは裏腹に、たくさんの噺家さんと芸人さんが舞台を盛り上げられて、客席もつられてたくさんの笑い声で一杯になった。

落語家さんは普段の話を作り変えて、トンキーホンクとの思い出話を交えて披露したり、御祝いの踊りを披露したり、出演予定のない人も集って、本当に賑やかで、まさに「この日だけ」の特別な公演だった。

肝心のトンキーホンクの漫才は、前半とトリの二回も登場されて、その度に客席から大きな拍手が起きた。

二人はいつもと勝手が違うことに若干戸惑われているようだったし、客席も何か特別な話をするのではと期待している雰囲気があった。

しかし、その期待をよそに、二人はこれまで何度も寄席で披露してきたネタを、これまで通りに披露しては客席を爆笑させて、最後の漫才魂を見せつけてきた。

ホンキートンクのネタは、本当に「声に出したいボケ」の連発で、何度聴いても笑ってしまう。

そんな何度も笑ってきたネタがもう観られないのか、と思うと残念でならないが、この場に同席できたのはラッキーなことだ、とつくづく思った。

最後は出演者と応援に来た噺家さんと芸人さんたちが全員舞台に出てきて、客席とみんなで三本締めをしてホンキートンクの幕が閉じられた。

(撮影OKタイムに客席からのリクエストでボケを披露する利さん。「きょうは僕の血液型だけでも憶えて帰ってください!僕の血液型はOです!(Aじゃないのかよ!)」という一説の場面)

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(これは「きょうは僕の星座だけでも憶えて帰ってください!僕の星座はふたご座です!(蟹の動きじゃねぇかよ!)」という一説の場面)
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今後、二人はそれぞれにソロで活動をされていくそうだ。

どんなネタをかけられるのか、それはそれで楽しみでもある。

演芸場から出ようとすると、ホンキートンクの二人が出口でお見送りをされていた。

(ピンクのスーツが弾さんで、紺色のスーツが利さん。利さんは闘病中の御夫人と一緒に髪を剃った。)

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たくさんのご贔屓さんが列を成していて、自分が声をかける間など無かったので、遠目から頑張れ〜とエールを送って帰ることにした。

いまは当たり前だと思っていることも、何かのきっかけで当たり前でなくなることもある。

法律で認められた夫婦であっても、経済的に繋がりのある仕事の相棒であっても、何かに保障されていることはない。

その時々を大切にして過ごしてはみても、振り返れば先々のことを保証してくれるものは少ないし。

臨むべきは未来のことで、いまはそれに向けた準備の時間の連続とも言えるだろうし、過去は未来を縛るものでもなかったりする。

ホンキートンクのお二人もそんなことを考えてたり、考えていなかったりするのかもしれない。

一方、先日に誕生日を迎えてひとつ歳をとった自分は、どんな未来にしていくつもりなのか。

ビジョンはぼんやりとしたままだけど、目を逸らさないようにしていたいし、できれば笑える物語になるといいなぁと思った。

 

#ひと月も過ぎて誕生日

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