ウォンバットの黄金バット

いろんなバットちゃんです。

#ゲイと東京から遠く離れて 年越し(2019-2020)②

昨晩に入った温泉のおかげか、久々にグッスリと眠れたので、起きる時間も遅くなってしまった。

普段であれば、5時ぐらいから動き出す両親の生活音で起きたりするのだが、この日は時計を見ると9時を少し過ぎてしまっていた。

階下の居間からは、テレビの中継音声が微かに聴こえてくる。

ニューイヤー駅伝だろうか。

うちの父親は走る趣味はないのに、駅伝の中継放送を見るのは好きで、元旦のニューイヤー駅伝と2日3日の箱根駅伝は毎年かかさずテレビで見ている。

過酷なレース展開や、後方のチームが繰り上げスタートになる場面がテレビで映ると、必ず盛り上がったりして結構下衆な見方をしている。

自分は走るのは好きだが、そういう下世話な話題は得意ではないので、例年は席を外すか、新聞を読むことに集中したりして両親の会話に混じることはない。

しかし、きょうは寝坊したこともあり、自分の分の朝食が父の見るテレビのある居間に用意されてしまっていて逃れることは難しく、仕方なしに同席することにした。

11時には姉①宅で新年会があるし、支度もしないといけないからそんなに時間もない。

朝食は、目玉焼きと昨晩の鍋の残りとご飯、というメニューでやっぱり正月らしさは皆無だったが、両親は自分が作ってきた赤飯を食べたらしく、美味しかったよと言ってくれた。

食べ終わってからは、姉①②家族へのお土産の用意をする。

姪①②と甥①はもう社会人なのでお年玉は用意しなくても良くなったのだが、父の治療についていろいろと手配をしてもらったので、御年賀と御礼の品で360mlサイズのTIGER製タンブラー型水筒を用意しておいた。

3人とも車通勤なので片手で開けられてロックもできるやつにした。

最近は少量型の水筒が流行ってるとラジオで聴いたので、もう持っているかもしれないが、毎日使うものであれば二個あった方が便利に違いない。

しかし最近の水筒の軽量化は想像以上で、人に贈るものではあるが、水筒を持った瞬間のあまりの軽さに、自分用にも欲しくなってしまった。

お年玉の方は、まだ大学生の甥②と中学生の甥③にあげるだけになった。

5人分から2人分だけとなると、だいぶ負担も軽くなって良いのだが、その分は寂しさも感じられたりもしてくる。

お年玉が減った分のついでと言ってはなんだが、甥③に読んでみてほしい本を何冊か見繕ってあげることにした。

姉①②と各義兄には、お菓子とお酒を御年賀として贈り、この間の別府旅行で買った入浴剤をお土産を用意してきた。

それと、昨日蒸した赤飯。

荷物をまとめると、サブバックがパンパンになって大荷物になった。

姉①宅に着くと、義兄と姉①が台所でおせちの盛りつけと仕上げをしていた。

義兄は結婚した当初、料理をする人ではなかったのだが、子どもが増えるにつれて料理をするようになった。

姪も甥も姉①がつくる料理より美味しいからと、義兄の料理を望んだことに気を良くして、いろいろと作るようになったらしい。

形式ばった年始の挨拶を済ませると、御年賀とお土産と赤飯を手渡す。

「なんで赤飯!?」と驚かれたのだが、事前にLINEで連絡していたのに驚かれる方が驚くはー、と少し不服に思うなどした。

後から思い返すに、「(赤飯は買ってくると思ってたのにまさかの自作だったとは!でも)『なんで赤飯(を作ることに)?』」という意味の発言だったようだ。

地元の方言とは言わないが、密度の粗い会話に癖があることを忘れていた。

階下での物音に気づいたのか、姪①が上の部屋から降りてきて挨拶をする。

甥①は昨晩から遊びに出かけていて、姪②は仕事でいないらしい。

なので、御年賀のハンカチと御礼の水筒をまとめて渡すと、意外と喜んでくれた。

ちょっと前までムスッとした顔で「ありがとう」と素っ気なく言うだけだったのに、大人になったもんだなぁと感心する。

周りから見たら、自分も同じ感じに見られているのかもしれない。

しばらくすると、姉②家族もやって来て、席に座る間もなく新年の挨拶とお年賀の交換、甥②③にお年玉を渡す。

甥②は大学生になっても少しアホで素直なので、「わ!ありがとう!卒論用に本を買うね!」と言ってくれたが、甥③は思春期真っ只中で目を合わせることさえも恥ずかしそうにして、小声で「ありがとう…」と言っていた。

一昨年までは必ず仮装をして流行りのネタをカバーして披露してくれたのだが、それはもう望めないのかもしれない。

中学校の文化祭では漫才を披露して大喝采を受けたと聞いていたので、今年は漫才ネタをひろうしてくれるのかなと期待してはいたのだが。

やはり学校のその他大勢に見せるのと、家族に見せるのとではだいぶ違うものなのだろう。

そういえば先日に、ストリッパーのダンサーは客の前では裸になって股を開きながら踊ることはできるが、家族の前では踊ることさえ恥ずかしく感じる、という話を本で読んだばかりだった。

一通りの挨拶を済ませると、姉①が両親にお年玉をあげているではないか。

俺は用意してないぞ!と出し抜かれたように思ったが、ここは気付かぬふりをしてやり過ごすのが得策、と存在感を消すことにした。

やいややいやと各々で喋っていると、義兄①が台所で作業をしながら「先に食べてくださーい」と言うので、締まりのないままに身内による身内のための新年会がスタートした。

(義兄①が作ったおせちと姉①が作った肉料理と俺が作った赤飯)

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テレビでは父が見ているニューイヤー駅伝の中継が流れ、甥②③はスマホゲームと名探偵コナンの漫画を読み始め、母と姉②は台所の仕事を手伝い始めた。

手持ち無沙汰になった自分は義兄②に酒を注いで、姪①に届いたジャニーズファンクラブの年賀状について、いろいろとオタク事情について話を聞いた。

驚いたのは、甥①が働いている小学校の生徒から年賀状が届いていたことである。

しかも去年まで臨時採用で働いていた学校の生徒からも届いているらしい。

ちゃんと子どもたちに慕われる先生をしているようだ。

あんなに勉強が嫌いだったのに。

知らないところで、みんな大人の振る舞いをするようになったらしい。

台所の仕事をひと段落させて、義兄①がテーブルにつくと、自分の前にビールと日本酒と焼酎の入ったグラスが並んだ。

(義兄①が用意してくれた刺身と持参した日本酒と肉しか食わない甥②とコナンを読み込む甥③)

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酒飲みな義兄①は、唯一身内で酒が飲める自分が来るのを楽しみにしていると姉①から聴いてはいたが、いきなりチャンポンをさせられるとはピッチが早過ぎる。

しかし、日本酒も焼酎も美味しくて、あっという間に義兄①と2人で一本空けてしまった。

しばらくすると、遊びに出かけていた甥①が帰ってきて、それを見計らうように姪①の婚約相手の子が来られた。

そういえば、きょうのメインイベントは姪の婚約相手に挨拶することだったのだが、酒の旨さにすっかり忘れてしまっていた。

簡単な自己紹介を終えると、酒が入って気を良くした義兄①と一緒に婚約相手いじりを始めて、いろいろ聞き出してみたが、姪①の機嫌を図りながらの応答はなかなかに骨が折れた。

少し気の触る質問をすると、仕返しのつもりなのか、姪が「◯◯(俺の名前)は結婚しないの?」と聞いてくるではないか。

その瞬間、家族の一部で空気が止まったように感じられたが、自分はそれを打ち破るべく「俺は結婚なんかしませーん」と声を張り上げて答えると、止まっていた空気が落胆の雰囲気を醸したようだった。

姪も暖簾に腕押しと見たのか、それ以上に追求してくることはなかった。

単に自分のいじりを止めるのが目的だったのかもしれない。

姉たちは台所仕事に戻り、甥たちはスマホとコナンに夢中だったし、父はテレビの駅伝ばかりを気にしていた。

肝心の婚約相手は、完全アウェイの場でも注目されることなく、思い出したように発せられる質問に誠実に答えていた。

聞けば、来月には隣町で一緒に住み始めるそうで、11月に結婚式の日取りも決めてあるのだという。

本当に結婚するんだ!って驚いていたのは自分だけで、他の家族はなんでお前は驚いているんだと呆れている様子だった。

教えてくれていないのにその反応は無いだろうと思うのだが、いつものことなので受け流す。

母が合いの手を加えるように、「そうよ!11月◯日は結婚式だから!予定を空けておきなさい!」と言う。

「あー、はいはい11月ね。土日なら休みだよー」と答えたものの、なんだか嫌な予感がしてスマホで検索してみるとその日は資格試験の受験日だった。

またもや落胆の雰囲気を醸す家族。

姪は「いいよいいよ来なくても、年に一回だけなんでしょ?」と、まるで俺には来て欲しくないかのような、フォローになってないフォローをしてくる。

自分はムキになって「結婚式は一生に一回だろうが!」と答えて、別の試験を受けることにする!と宣言したものの、心の底でまだ迷いは燻らせていた。

姪は気を使ってくれるが、母や姉①はあからさまに出席してほしそうにしていた。

夜の式だったら出られるのだが…。

公式の日程は出ていないから、とりあえず決めるのは先延ばしをすることにした。

正直、今年受けておきたい資格ではあったが、別に会社から求められている資格でもないのだ。

再来年受けるつもりだった資格を今年受けたって、誰も困らないし、不満に思うのは自分だけなのだ。

しかしそうは言っても心残りは消えない。

元旦からこんな岐路に立たされることになるとは…、と大袈裟に打ちひしがれていると、姉②がそろそろ帰るね、と言い出した。

どうやら婚約相手に気を使って帰ることにしたらしい。

そういえば、義兄と姉①とちゃんと話らしい話をしていないのだから、たしかにその他の親族は席を外した方が良さそうだった。

できれば自分は話を聞いてみたいけれど、と思ったのだけれど、母も同調して帰る!と言い出すではないか。

そうなると早いもので、テーブルの上はあっという間に片付けられ、バタバタバタと帰り支度をして車に乗り込む。

俺の結婚式と受験とどちらにするか問題は、もう誰も気にする様子はなかった。

ではではまたね、と挨拶をすると、姉①家族は近所に帰省していた甥の同級生の元に行って話し込み始めた。

婚約相手はまたしばらく放置されることが確定し、雑な扱いをして申し訳ないと同情するしかなかった。

まぁ、気を使われない方が楽なんだと、後でもいいから気づいてくれるといいんだけれども。

勝手な願いをしながら、姉①宅を後にして自宅に戻った。

しかしそういえば、父の治療の話が出てこなかったな、と思い出した。

姉たちの気遣いなのか、それとも単に忘れていただけなのか。

そんなに心配することではない証拠なのかもしれないが、うちの家族の雑さは折り紙付きだなと改めて思い直した。

型がないから良くも悪くも締まりがない。

帰宅するとチャンポンしたせいで身体が怠くて、横になっていたのだが、夕飯にうどんを食べるとすっかり酔いは冷めてしまった。

(義兄①が手打ちしたうどん)

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食べ終わると両親は早々に寝室に行ってしまったので、またもや手持ち無沙汰になった自分は、きょうも隣町の温泉に行くことにした。

晦日の昨日よりも、元旦となると流石に客は少なかったけれど、普段よりかは客の数が確実に多い。

露天風呂には、昨晩に吹き荒れていた風はすっかり落ち着いていたが、身体の芯まで冷えるような寒さと澄んだ色をした夜空が広がっている。

きょうも頭寒足熱で気持ちがいいな、と心地よさに酔いたくなったものの、「受験をするべきか、姪の結婚式に出るべきか」の問題が、ふと自分の脳裏に去来してくる。

先っき結婚式に出ることにしたはずなのに、何度も何度も迷いが蘇ってくるのだ。

なんとか自分を納得させる理屈を考えたかったのだろうか。

去年の昨日まではなかった問題を、元旦から悶々と考えることになるとは想像などしていなかった。

頭寒足熱の気持ちよさに、問題を溶かすことができたら助かるのに。

昨日は若い客の身体を眺める余裕があったが、きょうはため息まじりに夜空を眺めるしかなかった。

(風呂上りの牛乳でカルシウム補充)

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それは帰り道の車でも、家に着いて布団に入った後にも引きずって、どうしたもんだろうかーと悶々としたまま、2020年の1日目が終わってしまった。

 

 

#ゲイと東京から遠く離れて 年越し(2019-2020)②