#ゲイと東京から遠く離れて 3日目(正午)
ミキの持ち帰り方を気にしながら車を走らせていると、また雨が降り出してきた。
ただ、上空の雨雲はそれほど大きいものではなく、細切れになっているようで、断続的に降ったり止んだりする。
フロントガラスを打つ雨粒の大きさも不ぞろいで、ワイパーは手動で動かしていた方が効率的だった。
土曜日のお昼ということで、部活帰りの島の学生たちがバイパス脇の歩道を続々と歩いている。
みな結構な濡れ方をしているのにも関わらず 、傘を差している子は少ない。
よくよく注視してみると、学生に限らず、おじさんもおばさんも傘を差している人はほとんどいない。
これだけ頻繁に雨が降るような場所であれば、律儀に傘を差すのもバカバカしく思えてくるのだろうか。
午後の約束まで時間があったので、目的地の途中にある市街地に寄って、昼食を摂ることにした。
できれば行ったことのない店にしようと思って、市街地を当てもなくブラブラと歩く。
あまり満腹になってしまうと眠くなるのも嫌なので、軽めに済ませたいところ。
しかし、この島ではファーストフードなどのチェーン店が少ないため、当てもなく歩いたところで、目的は果たせぬまま時間だけが過ぎていきそうだった。
雨も強くなってきたので、鞄の奥隅にクシャっと折り曲げてしまっておいた島のタウン誌を開いて、適当なところは無いものかとページをめくる。
調べてみれば、近くにサンドイッチが美味しいと評判の喫茶店があるようだ。
島らしさなど皆無なメニューだけれど、島で都会と似たようなものを食べるのも、また変わった体験になるかもしれないな、と行くことにした。
店頭に着くと、前回島に来た時にホテルの近くを散策した際に、休憩がてら立ち寄ろうとしたお店だった。
その時は店内が満席で諦めたのだが、今日は数席ほど空いているようだった。
サンドイッチを自分で選んで、レジのところで飲み物を頼むスタイルのようだ。
近所の女子高生やおば様方、勉強や読書に寄った男性などでなかなかの賑わいだった。
サンドイッチは総菜系もあるが、同じぐらいにフルーツサンドが充実していた。
最近、フルーツサンドが好きな人って多いけれど、そんなに美味しいものなのだろうか。
生クリームが苦手なので、一回も食べたことはなかったが、せっかくなので食べてみることにした。
サンドイッチでは王道のツナサンドと、イチゴのフルーツサンド。
驚くほど美味しい!ってわけではないが、毎日食べられる美味しさで、満足のいく味だった。
人生で初めて食べたフルーツサンドだったが、食パンで作ったショートケ ーキだな、という確認だけした感じで終わった。
食事の体裁で、甘いものが食べられる優越感みたいなのが人気なのだろうか。
フレッシュな果物を使っていれば、菓子パンよりは健康的なイメージも受けるし、たしかに好んで食べる人にとっては都合がよいのかもしれない。
隣の席では近所に住んでいるであろうお婆さんたちが、フルーツサンドを食べながらお茶をしていた。
持病の話から、子供や孫の話などで盛り上がっている。
島の方言もあるので、そこまでちゃんと聴き取れはしなかったけれど、喫茶店でフルーツサンドでお茶しながら、井戸端会議をするなんて 、洒落た趣味をされているな、と思った。
うちの母はしたことがあるだろうか。
こういう余暇を楽しんでいると、自分だけいい思いしちゃってさ!、と僻む母の言葉が聞こえてくる。
自分のためや付き合いでお金を使う人では無いので、きっと無いような気がする。
すでにコーヒーは冷めてしまってはいたが、時間調整のためにちびちびと飲んでいた。
午後はこの島のユタ神様と会う約束をしていた。
同僚の両親の同級生ということで、せっかくだから会ってみるのもよいのでは、と紹介してもらったのは一昨年のこと。
そこまでスピリチュアルなことに熱心ではないのだが、島の土着文化に触れるには好機だと思ってお会いしてみたのだった 。
今回は3回目。
易学もやられる方で、今年はあまり良い年でないと言われていたので、どういうことなのか聞いてみたいと思っていたのだ。
それと前回はうやむやにしてしまったことを整理できればと思ったのだ。
その一方で、そんな自分の思い通りに話を進められる自信はまったくなかった。
そんなことができていれば、整理することなど無いのだから。
そろそろ出る時間になった頃で、ちびちびと飲んでいたコーヒーの残りを一気に飲み干し、食器を載せたトレーを返却台に戻して店を出る。
強くなっていた雨は小雨になって、傘を差すか迷うぐらいになっていた。
#ゲイと東京から遠く離れて 3日目(正午)