ウォンバットの黄金バット

いろんなバットちゃんです。

#ゲイと東京から遠く離れて 4日目(午前②)

昼食はどうしようか。

島のホームセンターに隣接するファミレスで済ませようかなぁ、とぼやぼやと考えを巡らせながら車を走らせる。

午後の便で帰るのだから、しばらくは島の景色も見納めになるものの、感傷に浸ることもないまま時間が過ぎていく。

中途半端な時間の使い方に、頭をフル回転させているせいだろうか。

日が高くなるにつれて、雲の間から日差しが届くようになった。

時折、雨雲が島の上空を通過しているらしく、道路のアスファルトが濡れていて外は蒸し暑くなってきている。

ファミレスは宿に戻る道の途中にある。

この道も何度も往復していて、よく見知った道になった。

そういえばこの島に初めて来たときから、道路沿いの景色にあまり変化はない かもなぁ、と記憶と突合しながら車を運転していたら、突如として道路沿いに異変が現れた。

いつも閉まっていて、てっきり廃業でもしたのかと思っていた黒糖の製糖工場が、なんと今日は開いていたのだ。

まさかの場面に、おおおお!?と狼狽えているうちに通り過ぎてしまった。

別に、製糖工場の稼働を心待ちにしていたわけでもないしなぁと、しばらく戻るべきか否かを考えあぐねたが、これも縁のうちだろうと車をUターンさせて通り過ぎた道を戻る。

工場前の駐車場に車を停めると、サトウキビの搾りかすが山のように積まれていた。

工場では、いままさに製糖作業をしているところで、薪を燃やす煙とサトウキビの絞り汁が煮えて出る水蒸気でもくもくと煙っている。

この島ではサトウキビの生産が盛んだ。

大概は黒糖焼酎の材料として製糖されるのだが、それらは大抵大きな製糖工場でつくられることが多い 。

一方で、そのまま食べられるような黒糖は、島の小さい製糖工場でつくられているらしい。

しかしいずれも、一年中稼働していることはなく、サトウキビの収穫期の春と夏でなければ、その作業の様子を見ることはできない。

自分はいつも島には9月に訪れていたので、島一番の産業の雰囲気を見知ることができないままでいた。

そういえば、昨日も今日もサトウキビを大量に積んだトラックと度々すれ違ったなと、その時は気にもしなかった光景がフラッシュバックしてくる。

今更ながら、あれは製糖工場に運んでいたのかぁ!と、点と点が線でつながって一人感動してしまった。

工場に併設されている小さな直売店に入ると、カウンターの奥で従業員らしきおばちゃんたちが、冷えて固まったばかりの黒糖を手で細かく割る作業をしていた。

入店してきた自分に気づくと、工場に行って製糖作業の様子を見てきたら?と見学を勧められたので、よろこんでお受けさせていただく。

カウンターの裏を回って、工場の中に入ると甘く煮詰められたカラメルの匂いで充満していた。

工場のご主人と女性の二人一組で作業をされていて、傍らから見学させてもらう。

製糖作業と言っても単純で、サトウキビの絞り汁を大きな鍋に入れて、木製の櫂でかき混ぜながら、煮詰めて粘り気が出るまで水分を飛ばしていく。

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(とにかく湯気がスゴい)

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(奥と手前の鍋は火力が違うらしい)

水飴状になったら撹拌器に移して空気を混ぜ込むのだが、撹拌度合いによって出来栄えが変わる。

浅めに撹拌してトレーに流し込んでから固めると板状の黒糖になるし、ある程度固まるまで撹拌するとゴロッとした塊の黒糖になる。

同じ黒糖ではあるのだが、舌触りや口の中での溶け方が異なるので 、味わいも変わってくるから不思議だ。

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(撹拌器に移すところ)

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(機械の工程になると見てる方も楽になる)

トレーに移す作業が終わると、櫂に着いて残った飴状の黒糖と、撹拌器に着いて残った黒糖を味見させてもらった。

出来立ての黒糖なので素手で持つには熱かったが、口に入れると黒糖の芳ばしい薫りが一気に鼻から抜けていく。

飴状の黒糖はねっとりと溶けて行って濃厚な味わいがするし、攪拌して空気を混ぜ込んだ黒糖は、ホロッと溶けてサラッとした味わいだった。

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(黒糖を買いに来たついでに見学していた地元の子に混じって味見をさせてもらう)

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(↑は撹拌せず飴状に固まった黒糖)

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(↑は撹拌後の黒糖でホクホク)

ご主人の話によると、サトウキビの畑によって成分が変わるのか、毎度の製糖作業でも出来栄えや味も変わってくるのだという。

普通ならば同じ味に仕上げることを良しとすると思うのだが、この工場ではそのまんま異なる出来栄えの黒糖を店頭に出しているそうだ。

直売所に戻ると、陳列されている黒糖は同じパッケージなのだが、列ごとに試食用の黒糖が置かれていた。

それぞれ違う窯で製糖されたために味が異なるので、好みの味の黒糖を買っていくといい、とお店のおばちゃんに勧められた。

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(籠ごとに試食することができる)

食べ比べてみると、同じ製法の黒糖でも、かなり味わいが違うので驚いた。

酸味が強かったり、甘みや香りの強弱もそれぞれ異なるバランスで 、自分の好みねぇ、、と思いながら食べ比べ、二袋買うことにした。

おばちゃんに会計をお願いすると、どの窯の黒糖にしたの?と聞かれ、棚の場所を指で指し示すと、あー私もこの味が好きよ、とおっしゃられる。

自分はいろんな味が同じ強さでしてくるものを選んだのだが、現場の人と同じ好みと言われると、なんだか照れてしまった。

単なる営業トークなのかもしれないけれど。

おまけで出来立ての攪拌版の黒糖を少しおまけしてくれた。

袋の口を閉めると湿気るから、今日一日は開けたままにして乾燥させるといいらしい。

出来立ての黒糖は、彼の人へのお土産に追加した。

こういうあまり加工に手を加えない素材が好きなのだ。

出来立ての翌日の黒糖にはなってしまうけれども、二日目でもなかなか口にできない代物だし、よろこんでもらえるといいのだが。

車に乗り込むと、隣にタクシーが停まって運転手のおじさんが店内に入って行き、黒糖を買う様子が見えた。

どうやらこの時期の観光タクシーのコースにもなっているらしい。

この島の実態をまだまだ見尽くせていないことを痛感すると共に、知らなかったことを把握できたことに嬉しい想いがした。

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(工場前に積まれたサトウキビ(右)と薪用の木材(左)、収穫時期が終わるまで製糖作業を繰り返す)

工場の駐車場を出て、ファミレスへの道に戻る。

いやはや想定外の寄り道をしてしまったせいで、ゆっくりする時間がなくなってしまった。

ファミレスではなく別の所で、サクッと済ませた方がよいかもしれない。

どうしようか。

けれど、先ほど買った黒糖の味を口の中で反芻していると、果たして買うべき黒糖はこの味で良かったのだろうかと、意識が全く別の所へ行ってしまう。

自分の好みの味というより、彼の人の好みに適うかどうかを気にしている自分が愚かに思えて笑えてくる。

悩んだところで、相手に伝わるかどうかは別の問題だというのに。

「あなたは独り善がりな考えに陥りがちみたいね」

昨日、ユタ神様に言われたことが急に蘇ってきて、少しだけため息をついた。

 

#ゲイと東京から遠く離れて 4日目(午前②)