ウォンバットの黄金バット

いろんなバットちゃんです。

#ゲイと東京から遠く離れて 4日目(午後)

宿に戻ってレンタカーの鍵を返す。

支払いはチェックアウトの時に済ませていたので、ガソリンを入れたことだけ告げて終わりだ。

宿のご主人はガススタンドのレシートも車のガスメーターも確認してくれない。

それはそれで困るものなのだと、自分からレシートを出してご主人に受け取ってもらう。

何回か泊まったことがある人であれば、余計な心配はしていないだけなのかもしれない。

ちょっと不粋なことをしたかもと思いつつ、最後の荷造りをするために宿の中に上がらせてもらう。

宿の中央にある広い食堂は、とても静かでガランとしていた。

近くの浜の波の音が微かに響いている。

ご主人以外は誰もいないようだった。

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(宿の食堂の様子、吹き抜けで風がよく通る)

食堂の隅に置かせてもらっていた荷物が、薄暗い部屋の中で冷たい塊のように見えた。

いそいそと一人、買ってきた黒糖を詰め込む。

しかし、凍ったペットボトルの飲み物を買い忘れたことに気づいてハッとする。

昨日作ったミキの発酵が進まないように、保冷材の代わりにしようとしていたのにウッカリしてしまった。

もうコンビニに戻る時間もない。

宿のご主人に保冷剤を分けてもらえないかとお願いすると、共用の冷凍庫にあるのを持って行きなよ、と了承いただいた。

共用の冷凍庫には、過去の宿泊者が置いて行った保冷剤がたくさん入っていた。

欲張って大きめの保冷剤を選んで保冷バッグに入れる。

例のミキは朝よりも発酵が進んでいるのか、気泡が増えているように見えた。

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(およそ24時間後のミキ、夏場であればもうできている頃合い)

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(でもやはり春先はもう一晩ほどの発酵が必要みたい)

ガスで爆発しませんように、と祈りながらキャップを硬く締めて、保冷バックのチャックを閉める。

無理矢理ながらも荷造りを終えて一安心したところで時計を見ると、空港へ送ってもらう時間の15分前だった。

食堂に置かれたグァバ葉茶を飲んで一休みをする。

空港に向かう時間だよとご主人に呼ばれ、荷物をご主人の車に運ぶ。

着替えと染めた古着とお土産の大きな荷物が3つもある。

ご主人に手荷物は大丈夫かと心配されたが、毎度のことだから平気であると答えたものの、荷物を持つ腕の筋肉繊維が引きちぎれてしまいそうに痛んだ。

ご主人の車に乗り込んで空港に向かう。

この宿のご主人は空港に送ってくれる途中、必ず島の景勝地に立ち寄ってくれる。

景勝地と言っても景色を眺めるだけの所なので、毎度の旅でわざわざ出向くことは少ないので、まだまだ見ていない場所は結構ある。

今回も以前とは違うルートを走ってもらい、最後の最後でちょっとした観光ツアーの時間にしていただいた。

同じビーチでもルートが異なれば、景色の見え方に変化があって違う印象を受けるとか。

初めて通る集落があると、やっぱり他の集落とは異なる雰囲気があるな、と思ったり。

時間は少しだけだったが、島のことというか、旅の醍醐味を味あわせてもらえた。

違うことは知っていても、新たなパターンに遭遇すると新鮮な驚きがあって面白い。

自分が求めていなかったことであれば、それも尚更だろうとも思った。

その分、この島のことはなかなかわかった気にさせてもらえそうにない、とも。

空港に近づいてくると、車は大きい県道に出て、ずっと海岸沿いを走っていく。

遠くまで開けた太平洋の海は、東京の海までつながっているというのに、まったくの別物の海に見える。

途中、また収穫されたサトウキビを大量に載せたトラックとすれ違った 。

どこかの製糖工場に運ばれていくのだろう。

空港に着いて車から荷物を降ろし、ご主人にお礼を行って別れる。

空港のカウンターは週末のせいか、結構混み合っていて、チェックインを済ませるのに少し時間がかかった。

待合スペースも搭乗する飛行機を待つ人で溢れかえっている。

出遅れたこともあって座れる席もなく、壁際に荷物を置いて搭乗案内を待っていると、向かいの席に会社の上司が座っているのに気づいた。

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(空港のロビー(?)は最近新しくなって広くもなった)

上司と言っても別の部署の課長で大した関わりもない人だし、自分も普段はしている眼鏡をかけていなかったので気づかれる様子もなかったが、なんでこの場所で会社の人と会うのかと心底驚いた。

どうやら同じ便で帰るらしい。

島の出身でもないはずだから、観光かなにかで来られたのだろうか 。

既婚者でお子さんもいると聞いていたが、おひとりの様子なのでいろいろと勘ぐってしまった。

東京からは遠いこの島で身近な存在に遭遇するとは、世の中広いようで狭い。

交友関係が広ければ、ザラにあることなのかもしれないけれど。

搭乗開始の案内が流れると、ゲートには長蛇の列ができた。

上司と席が隣でないことを祈りながら、大き過ぎる手荷物を持って並ぶ。

搭乗して座席に着くと、上司の席とは距離があってホッとした。

予約しておいた窓際の席から、外の様子をうかがう。

空は少し曇りがちで、上空から夕陽を眺めるのは難しそうだった。

離陸準備の機内アナウンスが聴こえると、ゆっくりと飛行機は滑走路へと移動し始めた。

滑走路に着くと、風向きの都合なのか、いつもとは逆の方向に離陸するようだった。

窓の外を見ると、遠く靄の中に喜界島が見える。

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(反対側の夕陽を見られるようにといつも左側の席を予約していたのだった)

飛行機が一気にスピードを上げて滑走路を走りはじめると、全身にガタガタとした衝撃が伝わってくる。

車輪が滑走路から離れて機体が空中に浮くと、全身に響いていた衝撃が消えてフワっと身体が軽くなった。

その瞬間、この島での旅が終わったのだと思った。

もう、すぐには島には戻れない。

窓を見下ろすと、先っきまでいた空港や車で走った海岸線が、指でなぞれる大きさになっていた。

 

#ゲイと東京から遠く離れて 4日目(午後)